連載3「特別養護老人ホームこはく苑はこうして生まれ変わった」和泉逸平

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4.問題はどこにある

課題把握シートには項目がなかったもののスタッフ内で課題となっていたのが24時間シートの作成でした。24時間シートは各利用者のサポート内容が15分毎に記載されており、この内容から必要な人員を算出することができると仮定し、24時間シートを独自の形式に変換(図1-8)し、数値化をし、勤務シフトと相関を調査しました。(図1-9)

 

 

図1-8 24時間シートを変換

 

 

図1-9 必要人員の過不足

 

過不足欄の太字が不足の時間帯となります。10時から16時の時間帯が手厚く配置されており、7時から9時、16時から20時が不足しているという結果となりました。

 

図1-10は1人勤務の時間をスタッフごとにまとめたものです。今回srs-18心理的ストレス反応測定尺度を用いて、スタッフのストレス度合いの変化も測定しました。1人勤務時間数が多いスタッフはストレスも大きくなっている傾向にあることも分かりました。またリーダーが1人勤務の時間が多い場合、さらにストレスは大きくなる傾向があります。

 

図1-9では、ある1日を示しているのですが、1ヶ月の中で、人数が充足している日と不足している日では、30時間以上の勤務時間の差が生じており、勤務の不公平感は大きな課題となっていることが分かりました。

 

 

図1-10 1人勤務の時間数

 

また、図1-9の必要人員は適正なのかという指摘もあり、それぞれのグループの利用者の介護負担度も調査しました。どの利用者がどれくらい介護スタッフの負担になっているかを前出の24時間シートに追加記載してもらい、集計を行いました(図1-11)。この結果、24時間シートは活用次第で業務量を推測するツールになると再確認をすることができました。

 

 

図1-11 仕事量(負担度)の比較

 

これらの問題をどうやって解決していくのか、仮定として、現状の勤務シフトの中で他のグループを手伝ってあげることで、どこまで改善が可能なのか、シミュレーションを行いました(図1-12)。

 

 

図1-12 協力体制を取ることで改善

 

シミュレーション結果では、一部の時間では改善は可能だが、根本的な解決にはならないことが分かりました。これらをスタートとして業務改善活動をスタートさせました。

 

 

5.介護ロボット導入の問題点

 

平成27年(2015年)には株式会社菊池製作所のイノフィスマッスルスーツの介護技術開発支援事業、導入事業、平成30年(2018年)、令和元年(2019年)には介護ロボットニーズシーズ連携協議会等にも参加させてもらっています。平成30年のニーズシーズ連携協議会では、介護施設にアンケートを実施し、「入浴や排泄はロボットではなく、自分たちがやりたい、記録や見守り、間接業務はロボットにやってもらっていい」という結果も得ました。

また導入事業では、マッスルスーツをはじめ、ツールを継続して利用してもらうには、ただ単に効果があるということだけでなく、「使いやすい」「分かりやすい」ということも大事な要素でした。一方で、導入を促進したスタッフがその後事業所を辞めてしまうという事例も少なくなく、十分な準備をするだけでなく、伴走支援も必要と感じています。

 

 

図1-13 これまでの導入実践

 

 

図1-14 これまでの導入実践

 

 

6 問題はどこでも起きる可能性がある

 

この事例を、数件の事業所の経営者に説明しました。

ほとんどのところは「今は困っていることはないですよ」という回答をもらいます。特に新人定着率については「うちは辞めないよ」という話が多いです。そうなのだと思います。

この実証の中で取り組み2年目以降新人が辞めないのは、体制ができたからです。また、面接時に選択できるというのも大きな要素です。ですので、この部分では私たちも目標を達成しています。

しかしながら、目指しているのは何があっても継続できる事業所です。決算書を読めたり、IT機器に強くなったり、自分たちで組織改革できるような組織にしたいと考え、特に地域との連携も視野に入れた取り組みを行っていますので、ぜひ最後までお付き合い頂きたいと思います。

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2022.04.11