連載5「特別養護老人ホームこはく苑はこうして生まれ変わった」和泉逸平

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3.新人研修マニュアル作成

求人応募が来ると事業所内は活性化していきます。私たちは新人研修マニュアルを再構成することにしました。タブレットの活用を推進するため、動画は特に大掛かりな機材は使わず、スマートフォンで撮影、無料動画編集ツールを使用し、スタッフ駐車場の注意点やタイムカードの打刻方法など直接介護業務に関わらない場面から作成していきました。

 

 

図2-3 新人研修マニュアル

 

 

新人研修マニュアルを作成するために、内閣府の介護プロフェッショナルキャリア段位制度を利用し、期首評価表を記載してもらい、集計しました。

 

 

図2-4 期首評価表

 

 

 

 

 

図2-5 期首評価表結果

 

 

自己評価において、≪1.介護技術の評価≫についてはほぼすべてのスタッフができていると回答しているものの、≪2.利用者視点での評価≫≪3.地域包括ケアシステム&リーダーシップ≫において、介護記録の展開、リーダーシップは約4割、地域包括ケアシステムについては約7割のスタッフができないと回答しています。この回答は平成29年度OJTを通じた介護職員の人材育成に関する調査研究の調査結果とも似通っており、介護業界全体の傾向といえるかもしれません。開設時から在籍するスタッフ、転職してきたスタッフともほぼ同じ結果であり、リーダーが育たない要因にもつながっているのではと感じました。

 

 

図2-6 夜勤ができるようになるには

 

 

同じ期首評価表を利用し、夜勤ができるまでどこまでできていて欲しいかを確認しました。「排泄」「移乗、移動、体位変換」「状態の変化に応じた対応」「利用者・家族とのコミュニケーション」「事故発生防止」「終末期ケア」が求められていることを確認し、この内容を新人研修マニュアルに盛り込むようにしました。

 

 

 

図2―7 離職者の勤続年数の内訳

 

 

もう一点、公益財団法人介護労働安定センターの報告書も参考にしました。

図2-7にあるように、1年未満の離職者が全体の4割、3年以内の離職が6割であるということも、現状の事業所の状況とほぼ合致しています。また図2-7の人間関係に問題を抱えて辞めてしまうということも当てはまります。あいさつをしてもらえないという不満は現状でも多く、その対応にも取り組むことにしました。

 

 

図2―8 前職の仕事を辞めた理由

 

 

図2―9の職場の人間関係において、「部下の指導が難しい」という点にも配慮することにしました。この点では、教える人が複数いると、複数のやり方を覚えなくてはいけない、さらに一緒に勤務する人によってやり方を変える必要があるという問題も出てきました。

 

 

図2―9 職場の人間関係の悩み

 

 

ここまでの考察を整理し、変更したモデル図が図2-10となります。これまでリーダーに任せていた研修の仕組みを変え、責任の中心を採用担当スタッフにすることにしました。

 

【改善前】

 

 

 

 

【改善案】

 

 

図2―10 問題解決のための体制変更

 

 

4.新人はタブレットが教える

 

新人研修マニュアルの刷新にあたり、目標を以下のように設定しました。

 

(1)あいさつ(コミュニケーション)

(2)1年続けられる環境を整える

(3)3カ月で夜勤ができる仕組みづくり

 

(1)あいさつ

 

あいさつについては、「あいさつをしても返してもらえない」、「新人なのにあいさつしない」など毎日の声掛けの欠如が、お互いの不満の第一歩となることをスタッフ全員に徹底しました。あいさつする範囲はどこまでなのかや、それはルール何ですかという声がありましたが、「あいさつをすることを徹底すること」ではなく、「あいさつをしないことで不満が貯まっていく要因になる」ということを周知しました。ですので、毎日ではなくても、できるだけお互いに声掛けをしましょうということになっています。

 

(2)1年続けられる環境を整える

 

(3)3カ月で夜勤ができる仕組みづくり

 

資格を持っていても最終の数週間から数カ月は間接業務しかやらせてもらえないという不満が多く上がっていました。一方でやり方が統一されていないことも分かりました。そこで、学生アルバイトに協力を頂き、まず何を教えて欲しいかを議論しました。間接業務のほとんどは「1回見れば分かります」ということでしたので、間接業務動画マニュアルを整備しました。そして図2-9のように、間接業務→直接介護と順に研修していたものを、間接業務はタブレットで学び、入職直後から直接業務に関わることができるよう変更しました。これにより、スタッフのモチベーションは改善され、定着率向上につながっていったと考えます。また夜勤を1人月5回程度にしたいというのは優先度の高い課題でしたので、いろいろな要望を組み入れることができました。

 

 

 5.ユニットリーダーが納得しない

 

ここまでは比較的、スタッフ全員の同意を得ながら進めることができました。

ここから、さらに残業時間を減らし、ユニットを超えた協力体制を築いていこうとしたのですが、ユニットリーダーから、自分たちが習ってきたことと方向性が違うと意見が出てきました。

これを効率や適正配置だけで、意識を変えてくださいというのは本意ではありません。

ユニットリーダーは「なじみ」の関係を大事にしています。ですので、グループ単位での関係性が効率性を求めることで崩れてしまうのには疑問が生じるようです。

 

この疑問を解消するために、睡眠データや介護記録データの分析を始めました。

 

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2022.04.24